ツバメに思う(LIVE No.6より)
今、学校の敷地内を、盛んに飛び交っているのが、ツバメです。校舎のあちこちで巣作りも始まっています。人の姿を見ると飛び立つのですが、近くのロープなどに止まって、しきりに鳴いています。ツバメは、昔から農作物の害虫を食べてくれる益鳥として、農家の人たちには大切されてきました。
私は、ツバメというと、次の二つの作品を思い出します。
一つは、オスカー・ワイルドの書いた短編で「幸福な王子」というお話です。ある町の公園の中央に、高い台座に立っている、とてもきらびやかな王子の像がありました。全身を金箔やたくさんの宝石で飾られたその像は、人々から「幸福な王子」と呼ばれていました。ある夜、この王子像で休もうと飛んできた1羽のツバメに、王子が話しかけました。「あそこの食べ物に困っている家族に、宝石を届けてくれないか。」ツバメは、言われるままに、王子の剣についていたサファイヤをくちばしで外し、その貧しい家族の家に届けてあげるのでした。そうして、毎夜毎夜、王子の目に映る、貧しい生活をして困っている人たちに、王子はツバメに頼んで体中の金箔や宝石を全て届けてあげたのでした。その結果、ただの薄汚い石の像となった王子像は、台から下ろされ、壊されていまいました。その傍らには、最後まで王子の願いを叶えた結果、暖かい南の国へ渡る時期を逃し、寒さで凍え死んだツバメがいました・・・。その様子を天界からみていた神様は、天使を使いに出しました。地上に降りてきた天使は、王子の鉛の心臓とツバメの亡きがらを抱いて、また天に帰っていったのでした。
私は、子どもの時、この話を絵本で読んで、この王子とツバメの行為に驚き、そして、自分のことより相手のことを考えた行動の美しさを知りました。
二つは、斎藤茂吉が詠んだ短歌の作品です。
「のど赤き 玄鳥(つばくらめ)ふたつ屋梁(はり)にいて
足乳根(たらちね)の母は 死にたまふなり」
茂吉の故郷は、今の山形県上山市。その故郷に住む母親が危篤だという知らせが、東京に住んでいた茂吉に届きました。急いで夜行列車に飛び乗って母のもとへ急ぐ茂吉。家に着くと、母は今にも息絶えようとしていました。悲しみに涙をこらえる茂吉が天井の方を見上げると、暗い農家の屋根の梁に、のど赤い2羽のツバメが止まっていました。ツバメは、そこから、じっと下の様子を見ています。ああ、こんな中で、私の母は、今、死んでゆこうとしているのだ、と心の中で母への思いをかみしめる茂吉なのでした。
たった31音からなる短歌。その言葉で表現される短歌の世界。愛する母を亡くそうとして悲しみにふける茂吉と、ただじっとたたずむ2羽のツバメ。その対称的な情景が目に浮かぶようです。
ツバメが巣を作ると幸運が舞い込むと言います。今、必死に巣作りに励むツバメたちを、そっと見守りたいと思います。
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